千年の京都に出会う~中村ローソク~
静かにゆらめく灯がつなぐ、京都の未来
千年の文化と出会う旅へ
千年の都・京都は、四季の移ろいとともに姿を変えながらも、文化の根を守りつづけてきました。
旅人が京都を歩くとき、そこで触れるのは景観や伝統だけではなく、人々が紡いできた営みと、素材の一粒にまで宿る“文化の時間”です。
本特集「千年の京都に出会う」では、“目に見えにくい文化の継承”に正面から向き合う事業者を訪ね、リジェネラティブ・ツーリズムの本質──地域と共に未来を育む姿──を探ります。
今回紹介するのは、1887(明治20年)年の創業以来、和蝋燭づくり一筋に歩んできた「中村ローソク」。
ロウソクの光とともに受け継がれてきた“無形の文化”を守るその営みについて、代表取締役: 田川 広一 さんにお話を伺いました。
このプランの特徴
◇京都・中村ローソクとは
1887年創業、四代にわたり京都で蝋燭を作り続けてきた中村ローソク。寺院に納める蝋燭づくりから始まり、いまでは「花ろうそく」や体験教室を通じて国内外の人々に和蝋燭の魅力を伝えています。
和蝋燭の原料には櫨(はぜ)や米ぬかなど植物性の蝋を用い、芯も藺草(イグサ)の髄を巻いた和紙芯という伝統の製法を守ります。
洋ローソクに比べ、和蝋燭の炎は大きく揺らめき、仏具や能舞台、茶席を照らす光として重宝されてきました。
近年は、京友禅の絵師が描く花ろうそくが人気を集め、京都の新しいおみやげとなっています。
京友禅の絵師が描く花ろうそく(画像提供:中村ローソク)
◇地域とともに灯す
田川さんの活動の原点には、「地域に支えられてきた恩を灯りで返す」という思いがあります。
父の事故をきっかけに障がい者福祉に関心を持ち、障がいのある方が絵付けを体験できるキットを考案。
さらに伏見港での「あかりイベント」や、竹田小学校の児童と行う行灯づくりなど、地域ぐるみの活動を続けています。「火は危ないものではなく、正しく向き合えば人を守る力にもなる」と、子どもたちへの防災教育にもつなげています。

和ローソク体験の様子(画像提供:中村ローソク)
◇伝統をいまに生かす技と哲学
和蝋燭の灯りは、単なる明かりではなく祈りの象徴でもあります。
田川さんは、蝋燭がもつ「循環するものづくり」の精神を大切にしています。
植物から生まれ、煤(すす)を最小限にして消える蝋燭は、自然と共生する“本来のサステナブル”の形です。その哲学は「京都悠久の灯プロジェクト」にも息づきます。
京都市と協働し、原料となる櫨を京北地域で再び育てる取り組みを開始。
地産地消の原料づくりを通じて、環境・職人・地域の未来を照らす新しい循環を生み出しています。
京北の山里で和ローソクの原料となるハゼノキを育てる(画像:AdobeStock)
◇受け継ぐ信頼、続ける仕組み
和蝋燭職人は全国でわずか二十人ほど。道具を作る職人も減少するなかで、中村ローソクは「売り続けることで支え合う」仕組みを築いています。
職人や取引先に仕事を回し、下請けが途切れないように気を配る。休みの日には自ら体験指導を行い、若い世代へ技術と魅力を伝えます。
「仕事が途切れないようにすることが自分の役割」と田川さん。
また、寺院や芸舞妓とのコラボレーションなど、伝統文化の現場を支える“縁の下のプロデューサー”としても活躍しています。
京都の多様な人々をつなぐ要として、その存在は欠かせません。
京都の多様な人々をつなぐ和ローソク職人(画像提供:中村ローソク)
◇千年を照らす灯り
田川さんの言葉を借りれば、「灯りは表に出るものではなく、誰かを支える裏方の存在」。
その炎の奥にこそ、京都が千年守り続けてきた“つながりの文化”が息づいています。

和ローソクの灯り(画像提供:中村ローソク)





